東急線の安全な運行には、日々の点検・整備が欠かせない。鉄道の生命線ともいえる電気設備は、実際にどのように管理されているのか。新丸子電力区 電路担当の加藤さんと阿部さんにお話を聞きました。
“鉄道の運行に欠かせない電線や電柱を守る”
まず、電気はどのようにして供給されているのですか
加藤さん 電力会社さんから受電した電気を東急電鉄の変電所で変圧し、駅の照明や改札などに使う6,600Vと、鉄道を走らせるために使う1,500Vに分けてから、各所に供給しています。私たちはその電気を供給するための電線や電柱などの点検・整備を行っています。
例えば、鉄道は線路の上に吊るされているトロリ線に、パンタグラフを接触させて電気を供給しているのですが、トロリ線はすり減っていくものなので、日々点検を行い、鉄道の運行に悪影響が出る前に張り替える必要があります。
“総合検測車「TOQ i」が日々の点検に大活躍”
実際に点検はどのようにして行っているのですか
加藤さん 点検には総合検測車「TOQ i(トークアイ)」を使用しています。私たちの電気部では、2カ月に1回、「東横線」「みなとみらい線」「目黒線」「池上線」「多摩川線」を2日間に分けて走行しながら、電気設備の状態を測定。HDDに保存した測定データを事務所に持ち帰り、PCの専用ソフトでデータを解析します。 専用ソフトでは、規定値を越えた箇所を自動でピックアップしてくれるので、その箇所のデータをさらに細かくチェック。少しでも怪しいと思われる箇所については現場に出向き、実際にはしごを掛けて目視と測定器で確認。悪い部分が見つかった場合は補修を行います。
阿部さん 基本的に補修は夜間に行いますが、列車の間隔に余裕のある池上線や多摩川線では、日中に作業を行うこともあります。その場合は、見張り員を必ず配置する、線路脇にある黄色と青色の回転灯で列車の接近を確認するなど、安全の確保に細心の注意を払っています。ちなみに線路の脇にある回転灯は、黄色が上り列車、青色が下り列車の接近を表しているんですよ。
“測定精度が大幅に向上、映像の記録も可能に“
TOQ iの魅力は何ですか、従来の検測車と何が違うのですか
加藤さん TOQ iは2012年に東急電鉄がさまざまな企業の協力のもと開発した検測車です。測定できるデータの精度が以前よりも格段に向上しました。しかも、通常の鉄道と同等の速度で走行しながら必要なデータを測定できるのが特徴です。
前面と上部ではハイビジョン画質でのビデオ撮影も可能なため、鮮明な映像で現場の状況を確認したり、数カ月前の状況と比較したりできます。TOQ i以前の検測車にはビデオの撮影機能自体がありませんでした。
阿部さん TOQ i以前は検測走行中にデータの補正が必要な場合もありましたが、 TOQ iではほぼ自動で正確なデータを取得できるようになり、作業員の負担も軽減しています。
ちなみにTOQ iは私たち電路担当だけでなく、保線担当や通信担当なども使用しています。電気回り以外にも、電車の運行に関わるさまざまなデータを同時に取得することができるんです。
“今後は建築限界の測定機能にも期待”
今後、さらにTOQ iに追加してほしい機能などはありますか
加藤さん 既にTOQ iは十分な機能を搭載しているのですが(笑)。さらに欲を言えば「建築限界」を検知できる機能があるとうれしいですね。建築限界とは、鉄道が安全に走行できる空間の範囲を表します。 今は走行に支障を来たす疑いのあるもの(例えば木や看板など)について、一つひとつ自分達で測定に行っています。TOQ iがそれらを自動で検知できるようになれば、さらに迅速に安全性を確保できると思います。
“お客さまの安全を自分が守っているという意識”
最後に、普段の作業でお二人が特に気を付けていることを教えてください
加藤さん たった1つの異常でも、電車が止まり、多くのお客さまにご迷惑をかけてしまう可能性があります。いち早くその兆候を察知できるように努めています。また、些細なミスが事故を引き起こしてしまう可能性がある仕事なので、日々責任感を持って作業に当たっています。
阿部さん 現場は危険を伴う仕事なので、“自分の安全は自分で守れ”という先輩方からの教えを常に意識して作業しています。また、安全を守るためにも、少しでも検査で気になったことがあったらそこをあらためて確認し、自分の中で疑問点が残らないようにしています。
加藤 凌太(かとう りょうた)さん
新丸子電力区 電路担当
鉄道事業本部 電気部
阿部 和信(あべ かずのぶ)さん
新丸子電力区 電路担当
鉄道事業本部 電気部
2015年9月現在